このブログを見ているくらいの人は、
おそらく多くがその名を知っているであろう、
アジア情報ニュースサイト『KINBRICKS NOW』。
『独裁者の教養』刊行記念で、
あちらの管理人(もともと知り合い)のChinanews氏と対談してみた。
元記事はすでに『KINBRICKS NOW』に載っているのだけれど、
未読の方やコメ欄で意見を書いてみたい方用に、こちらにも転載してみたい。
2010年4月に出た、第一作目『中国人の本音』(講談社)。
メディア関係者やら出版関係者やら中国関係者やらの評判はそれなりによく、
事実、一冊の本としてなんとなくまとまってはいた。
それまでフリーターみたいなもんだった自分が、
とりあえず中国を仕事にしてご飯を食べられているのも、この本のおかげ。
だが、すでに何人かから似たような感想をもらっているのだけれど、
『大陸浪人のススメ』を昔から読んでいる人のなかには、
「なんかつまんねー」「ぶっちゃけ、ブログの方が面白いじゃん」
といった意見が少なからずあったことも事実なのだ。
(心当たりがある人は挙手)
で、これはもちろん自分でも薄々気付いてはいた。
そんなこんなでどうしたらいいかしらと試行錯誤してたら、
『中国人の本音』からずいぶん時間が経っていた。
で、今回の『独裁者の教養』。
上記の問題にピリオドを打つのが隠れた目的だったりしたのだけれど、
そんな話をChinanews とやってみた。
転載とはいえ、やっぱり自分の本拠地での報告義務はある。
というわけで、どうぞご覧ください。
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【29歳の「中国ネットウォッチャー」がなぜ独裁王国に潜入したのか?
安田峰俊『独裁者の教養』出版記念インタビュー】
ttp://kinbricksnow.com/archives/51751258.html
■『独裁者の教養』ができるまで
Chinanews(以下、C):
今さらですが、インタビューをサイトに乗せる予定なので、今回の本の概要を教えて。
なんでまた、”中国ネットウォッチャー”の安田氏が「独裁者」なんて濃いテーマを選んだの?
安田:
本のコンセプトは「独裁者は若いころにどんな経験(=教養)を積んでいたのか」です。
独裁者って、そりゃあ傍目から見れば「悪いヤツ」に違いない。
でも、彼らって国家と人民を完璧に支配することに成功したわけで、
ある意味で「男の夢」を叶えた人たちじゃないですか。
そうなりたいとは絶対に思わないけれど、
人民が声をそろえて称賛してくれて、
自分の著作をみんなが読んでくれるなんて、ちょっと「羨ましいよね」と(笑)。
C:
確かに。日本全国の1億3000万人が感動の涙を滂沱と流しながら、
僕の『KINBRICKS NOW』を読んでくれたりしたら、ちょっと胸が熱くなりますね。
どんな世の中だよ! って感じだけど(笑)。
安田:
でしょ?
そんな「男の夢」を叶えてしまった独裁者って、やはり物凄いヤツらであることは間違いない。
じゃあ、彼らは若いころにどんな下積み人生を送っていたのか――?
そんな疑問を持ったのが、今回の本を書こうとしたきっかけなんです。
C:
そういうことなんだね。
安田:
結果、ヒトラーや毛沢東・カダフィあたりの有名どころから、
トルクメニスタンの「ニヤゾフ」っていうマニアックな人まで、
8人の独裁者たちの若き日をマジメに調べてみることにした。
でも、同時に「独裁者に支配される人たちは何を考えて彼らに従っているんだろう?」
という疑問が芽生えてきて――。
だからそれを検証するために、
リアルな独裁政権である謎のアヘン軍閥「ワ州」に密航潜入してみることにした。
*ワ州……ミャンマー・シャン州東部の中国国境沿いに位置する、半独立化した独裁政権。
共産ゲリラ崩れのワ州連合党の「主席」鮑有祥によって統治されている。
公用語はワ語と中国語で、「国内」では中国の人民元が流通。
有史以来、足を踏み入れた日本人はおそらく数十人以下だと思われる。写真は前回の記事も参照。
C:
なるほど、辻褄は合う……。
って、発想の過程はわかるけど、
その結果として何で「そうだ、アヘン軍閥行こう」って答えが出てくるの!
「そうだ、京都行こう」じゃないんだから(笑)。
安田:
うん(笑)。確かに「変」なんだけど、そんな変な発想が出てくる自分を大事にしたかった。
で、今後もそんな変なことを考えられる自分でいるためには、
実際に「変なこと」をやって結果を出すしかないと思った。
もちろん、単純にワ州にも行ってみたかった。
15年前に辺境ライターの高野秀行さんが『アヘン王国潜入記』を書かれて以来、
日本人がほとんど誰も足を踏み入れてない謎の独裁政権なんて、
一度自分の目で見てみたいと思うでしょ?
あと……、他にも理由はあるんだけれど、それはインタビューの最後に話しましょう。
*高野秀行……辺境ライター。1995年にワ州に長期潜入し、現地の村人とともにアヘンを栽培。
代表作に『アヘン王国潜入記』『西南シルクロードは密林に消える』など。
■異常に「攻めている」本を書いた理由
C:
それにしても、今までと随分毛色が違う本になったよね。
やっぱり、今年春の「ジャスミン革命」とかリビアの情勢がきっかけ?
安田:
それ、よく尋ねられるんだけど、実は全然違うんです。
実は企画そのものは去年(2010年)の秋からあって、
本文を書いてるうちに中東で革命が起きて、
著書刊行直前にカダフィが死んじゃった。ビビったのはむしろ俺だ(笑)。
もともと、そんな時勢の動きとは関係なしに
「10年後になっても色あせない本」を書くのが今回の目標でした。
C:
本の内容でいえば、
著者紹介と第1章(ワ州密航記パート1)から始まる
自分を出した構成にまずびっくりしたけど、
プラス、カダフィをはじめ独裁者たちのマジメな評伝。
伝記1冊でもおさまらないような濃いメンツをずらり8人並べて、結構みっちり書いている。
でもって、ラストに日本論を持ってくる。
「俺はこんなことも出来る!」っていう
持てる技術を全部突っ込んだという印象があった(笑)。
安田:
まったくその通りで、仕事としてのコスト概念を無視して作った部分がある。
けっこう大人気ない本かも(笑)。
ところで、刊行前に『ファウスト』の編集長の太田克史さんから
『独裁者の教養』の読後感想をいただいたんだけど、安田の特性が三つ感じられるらしい。
「闇・沢木耕太郎」みたいな冒険ライターの部分と、
そこそこアカデミックな「歴史学徒」の部分と、
なんというか「国士」とか「壮士」みたいな部分をそれぞれ感じるんですと(笑)。
*太田克史……講談社の文芸誌『ファウスト』編集長。星海社副社長。
2011年5月、第3回ファウスト賞応募者へのユニークな論評がネット上で話題になった。
参考:第3回ファウスト賞の編集コメント辛辣すぎワロタwwwwww(ハム速、2011年5月6日)
ちなみに思いっきり手前味噌なんだが、
今回の本は上記スレで並み居るラノベ作家志望者をバサバサ斬っている太田さんに
「『独裁者の教養』はおもしろかった。売れるかどうかは知んねーけどww」と言わせた本ではあるのだ。
C:
「闇・沢木」と「歴史学徒」と「国士・壮士」か(笑)。正しい指摘のような気がする。
それって、昔から『大陸浪人のススメ』を読んでる人ならしっくりくるよね。
でも、過去の著作の『中国人の本音』(講談社)から
安田さんを知った人には、すごく違和感がある姿じゃない?
安田:
だと思う。ちなみに『中国人の本音』って、
有名編集者の堀田純司さんが執筆段階で担当してくれたお蔭で、
すごくきれいな内容にまとまったし、中国情報としても良い本だったと思うんだけど、
「著者の意見」はあんまり無いんですよ。
紙の媒体で書くのが初めてのブロガーが、何をどう書けばいいのかわからないまま、
序論から結論まで堀田さんにおんぶされてゴールに連れて行ってもらった感がある。
もちろん、当時の自分の実力では
編集者に思い切り助けてもらわなきゃ1冊の本は書けなかった。
でも、完成した本からは著者自身の姿はあまり見えてこないし、
アクがなくてノッペラボーな印象もあったのも事実なんです。
ある意味で自動筆記状態でできた本というか。
*堀田純司……作家。フリー編集者。2005年、93万部のベストセラーとなった『生協の白石さん』(講談社)を編集。
安田峰俊の『中国人の本音』も、執筆段階での編集に携わった。
作家としての近著は『僕とツンデレとハイデガー』(講談社)。
C:
ずいぶん辛辣な(笑)。でも、それはそれで話題になったじゃないですか?
安田:
だから、それに逆に縛られた感があったんです。
自分のブログでなら自由に好きなことを書いて毒も吐けるんだけど、
品行方正な『中国人の本音』の著者としては、
公の場ではさわやかに微笑みながら「日中の若者の相互理解を(はあと)」とか、
毒にも薬にもならんことを言わなきゃならんと。
話題になった本を書いたんだから、著者としてそれを裏切ってはならんのであると。
そんな制限をなぜか自発的に頭のなかに課していた。
でも、それってぶっちゃけ「超つまんねー」「めっちゃつまんねー」と(笑)。
C:
あー。わかるような。そこに
「ろくに取材もせずにネットの書き込みをパクっただけで本が書ける、
中国ネットウォッチャー様(笑)って羨ましいよねwww」
みたいな同業者各位からの天の声がガンガンくるわけですね(笑)?
安田:
そう。あと、「君、ブログの文章の方が面白いよね?」とか。
カープの前田智徳じゃないけど「お前に言われんでもわかっとる!」と(笑)。
ただ、それでも「自分は『中国人の本音』での役割を守らなきゃいけないんだ」
とか思ってたわけです。
100%自分の力で作ったわけでもないような本に囚われすぎた。
で、「借り物の力なんか全部捨てちまえ!」と思い切るのに1年以上かかりました。
C:
今回の本で毛色が違ったのって、
「星海社新書」っていう新規レーベルの影響も大きいのかな?
「29歳。が語る 彼らが学んだ正義・思想・革命とは何か?」っていう帯も攻めてたけど。
安田:
レーベルの影響は大きい。
星海社って2010年秋にできたばっかりの講談社の100%子会社なんだけど、
よく言えばベンチャー気質で、悪く言えば変わり者の編集者の隔離施設みたいな場所。
担当編集者の柿内芳文さんが
「なんぼでも時間かけていい。なんぼでも骨は拾ってあげる。納得するまで自由に書いていい」
という非常に大らかな方針で(笑)。
だから、じっくりと自分のなかの『中国人の本音』の呪縛を破壊することができた。
帯の文章も、原稿を書き上げてからアイディアの部分は自分で出しました。
*柿内芳文……編集者。光文社新書編集部での勤務を経て現在は星海社新書編集長。
光文社時代には164万部を売り上げた『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』などヒット作のプロデュースに携わる。
移籍先の星海社新書でも、編集した『武器としての決断思考』が現在15万部突破のヒット中。
Twitterアカウント:@kakkyoshifumi
C:
安田峰俊はゆとり教育でもっと伸びる子だったと(笑)。
安田:
あと、副担当編集者だった平林緑萌が、
安田の大学1年当時からの同級生(立命館大学東洋史専攻)だったのも非常に大きい。
そもそも、学生時代から俺を知ってなきゃ、
薄っぺらい「中国ネットウォッチャー」なんていう肩書を持ってる安田の得意分野が、
歴史学だなんて誰も思わないはず。
この点で、平林は自分にとって、どんな名編集者よりもベストな編集者でした。
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後半に続く。
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