長らく更新が空いてしまったのは、
例によってサボっているからでもあるのだけれど、用事で3週間も中国へ行っていたからでもある。
雲南・広東(深セン)・マカオ・上海・北京と巡って、
「中国でかすぎありえねえワロタw」という取材になった。
ところで、今回の中国滞在でものすごく困ったのがネットだ。
どうやら今年の夏ごろまでよりも規制が更に厳しくなっているらしく、
Gmailの接続速度がえらい遅いし、Googleで検索自体がおこなえないこともしばしば。
(いっぽう、あまりの遅さにむかついて百度や優酷その他の中国サイトにつなぐと、
あまりにもあっさりと繋がって拍子抜けしたりするw)
……まあ、とはいえこれは当たり前っちゃあ当たり前のことなのだ。
日本ですらこれだけ「ネットは中国に自由と民主主義をもたらす!」とか
色々その手の言説が本屋にズラズラと並ぶ状況になってしまった現在、
中国共産党様がネットへの管理統制に本腰を入れるのは当然ではある。
もっとも一方で、実は中国の一般的なネットユーザーは、
ツイッターやフェイスブックはもちろん、意外とGmailやアマゾンなんかも使っておらず
かわりに中国国内のサービスを使っているため、
この規制にそれほど大きな不便を感じていない人もそれなりに多くいたりするのも事実だ。
ツイッター ⇒ 新浪微博、騰訊微博
フェイスブック ⇒ 人人網、QQ空間
ようつべ ⇒ 優酷、土豆ほか
Gmail ⇒ なんぼでもかわりのメールサービスがある
Google ⇒ 百度、捜狗
アマゾン ⇒ 当当網、タオバオ
中国のネット人口は5億人。
といっても、これは日本のネット人口「9900万人」と同じく、
グ●ーとかモ●ゲーの釣りゲームに10万円課金しちゃうアホな中学生とか、
携帯でワ●ワクメールしか使ってないヒャッハーなDQNとか、
孫に一週間に一回だけメールを打つのが楽しみのお婆ちゃんとか、
「店のHP作りました!」とマイドキュメントの場所名を壁に貼っちゃう食堂の店主とか、
そんな感じの(世間の圧倒的多数を占める)膨大なライトユーザーたちを包括した数字であって、
Googleやツイッターが使えなくて本気で困って悲しむような人たちは
ネット人口全体の(おそらく)2〜3割程度かそれ以下でしかない。
一昔前の日本で、少なからぬ人が
Gooとかニフティとかの検索やメールサービスを使っていて、
それはそれで不便を感じていなかったのを思い出してほしい。
現在の中国における「Googleが無い世界で不便を感じない人々」の存在というのも
それなりには想像できるのではあるまいか。
ライトユーザーというのは、
便利な国外サービスよりもわかりやすい国内サービスを使いがちであり、
国外のサービスが使えなくなっても意外と困らないものなのだ。
(余談だが、俺のオカンはいまだにGooで検索しているw)
……だが、だ。
どうやらGoogleやツイッターなどの国外サイトだけではなく、
ライトな人を引き寄せて現在はわが世の春を謳歌している中国国産ウェブサービスの世界にも、
当局の規制の波が押し寄せつつあるらしい。
それが「ミニブログ(微博)実名必須制」である。
中国・北京市、中国版ツイッター「微博」で実名登録を義務化(サーチナ)
中国・北京市政府は16日、“中国版ツイッター”と呼ばれる短文投稿サイト「微博」(ミニブログ)で実名登録を義務化
すると正式に発表した。即日施行され、ユーザーは3カ月以内に本当の個人情報で登録しなければ「つぶやく」ことができな
くなるという。中国各メディアが同日伝えた。
北京市政府は16日、「微博の発展管理規定」を公布、即日施行した。「規定」によると、個人もしくは団体ユーザーは住
民登録や法人登録といった本当の身分情報でなければ「微博」アカウント登録ができない。つまり北京市が管轄する新浪ネッ
トや捜狐ネットでは実名登録が必須になる。
「規定」によると、ユーザーは公布から3カ月以内に北京市インターネット情報内容主管部門に関連手続を申請しなけれ
ばならない。違反者は処罰されるとしている。報道によると、実名登録しなければ発言サービスが利用できなくなる。ただし
閲覧サービスのみ利用する場合は、現在のところ制限はないという。
中国インターネット情報センター(CNNIC)によると、中国のインターネットユーザーは6月末時点で4億8500万人、
「微博」ユーザーは約2億人。「微博」は急速に普及し、7月に起きた高速鉄道事故のように、ユーザーが事件事故の現場から
情報を発信するなどの“活躍”も多い。
北京市インターネット情報内容主管部門は、「微博の発展とともにデマや虚偽情報、ネットを利用した詐欺も現れ、公共
の利益を損なっている」とし、「規定」制定の理由を「インターネットの健全な発展を保障するため」だと説明している。
実名制導入について、中国ネット上ではさっそく物議をかもしている。「発言に責任を持つようになる」と評価する意見
もあるいっぽう、事実上当局による管理強化と受け止め、「ユーザーに孫悟空の緊箍(きんこ)をはめるようなもの」との批
判も出ている。
また、新浪など「微博」運営企業の業績に大きく影響し株価は下落すると見られている。(編集担当:阪本佳代)
こちらの問題について、
以下に「新浪微博」の利用者たちの反応を見てみることにしよう。
――――――――――――――――――――――――――
【微博の実名制、はじまる】12月16日 15:30
「南都週刊」公式アカウントのツイートへの反応より
http://www.weibo.com/1641532820/xChsdaXxL
@南都週刊
【北京市、微博実名制をはじめて推進】
北京市人民政府新聞弁公室・北京市公安局・北京市通信監理局・北京市互聯網信息弁公室は、
本日付で≪北京市微博発展管理若干規定≫を発表。
あらゆる組織と個人が微博のアカウントを作成する際には、
身元を証明しておこなわねばならず、
身元の証明ができない者は、閲覧のみが許可され発言は許されないこと、
各微博サイトは今後三カ月以内にユーザーに対する規定を完成させることを規定した。
http://t.cn/SciyVb
@安徽chaolei (12月16日 17:52)
これはまた、すさまじい影響が出そうだなあ……。
@譚昊TanHao (12月16日 19:02)
これまで、微博は自由な言論の場になれるんじゃないかって願っていた。
そして、微博は長らく圧迫に晒されすぎてきた
中国人の小さな息抜きの窓となっていた。
でも、もしもこの小さな窓ですらも閉じられてしまうとするならば……。
巨大な反発が、予想だにしないような勢いで噴き上がるかもしれない。
@myakb (12月16日 19:08)
(今回の指示を出した)後ろにいる人たちも実名制にしてくれ。
@莫邪xyj (12月16日 19:18)
予測はしていたことだが、ついに始まったな……。
@宦九歌兒 (12月16日 19:27)
やったぜ! これでもう遊ばなくなるよ!
※確かに、ソーシャルサービスが無くなった方が仕事の単純な効率は上がるよなw
@FHM占春苗 (12月16日 19:43)
ははは。政策というのは素早く決まるものだねえ。
@shu棠君 (12月16日 19:45)
言論の自由には、
もちろん匿名で言論を発表する自由だって含まれるはずだ。
※「実名アカウント以外はブロックします!」とか言ってる、
ちょっと気持ち悪いツイッターユーザーたちにぜひ聞かせたい言葉w
@無關註無粉絲無微博 (12月16日 19:52)
(偽アカウントを売る)ダフ屋がいい仕事になるだけじゃねえか。
(中国の体制は)まさにこのように各方面でダフ屋に福利厚生を施してあげる体制だよね。
※中国はデフォルト設定では行政その他のサービスがよろしくないが、
ワイロその他人脈背景によって、生活上の問題が日本以上に便利に解決されることもあるのが中国というもの。
ちなみに今回俺が中国でやった取材でも、「この地域では”殺し”以外は何をやってもフリー」という、
ものすごすぎる背景を持っている人に会っている。
@小浚子Fucky (12月16日 19:52)
この規定は北京市民に対してのものか、全国の人民に対してのものかどっちだ?
もしも全国の人民に対して課すものだったら、全人代(=中国の国会)はどこに行ったんだ?
全人代の常務委員会はどこへ?
こういうのって、ひとまずは名目上であっても全国組織で決定されるべきものでは?
※ここが今回、中国当局のズルいところかもしれない。
中国だってひとまずは法治国家を自称しているため、こういうことは本来、
やはり形式的とはいえ国会で法律として決まった上で全国に施行されるべき。
もしくは(これはすでに民主的なプロセスではないが)少なくとも国家機関が「通達」を送ることで
民間にそれを順守させるという手順を、最低限踏むべきではあった。
だが、言論弾圧法案なり通達なりを、国が責任を負う形で議論したり決めたりすると、
アメリカ様やEU様がお怒りになって面倒くさいし、声の大きいネット民も騒ぐしで面倒だ。
別にその気になれば中央から通達出したったっていいんだが、より面倒くさくない手法の方がいい。
そこで、新浪微博の本社が置かれている北京市で、「街の条例」として制定することにしたのだろう。
本社の運営規定として「実名必須」となれば、ネット実名制は事実上は実現できてしまうからだ。
ちなみに(意図的になされたものかは別として)似たような事例は日本にもないわけではない。
日本の出版社の9割が集中してコミケも開催される東京都で「ロリエロ漫画禁止条例」を制定すれば、
日本国内で流通する漫画の表現を事実上は大きく規制できてしまう……、という困った話は、
読者各位もどこかで聞いたことがあるのではないだろうか?
参考:「非実在青少年」(同人用語の基礎知識)http://www.paradisearmy.com/doujin/pasok_hizitsuzai.htm
@Joe胡振邦(12月16日 19:53)
>@軍械所樂隊 絶対に反対だ。非常に憤慨している。
>@劉立新-公民 言論の自由こそ栄誉、ネット実名制の強制は恥だ。
民主主義への距離がまた一歩遠のいたか……。
@小魚愛宸 (12月16日 20:18)
いつも弱者にばっかり刀を振るいやがって……。
@-笨peng蟹- (12月16日 20:33)
官僚の財産は一人として公開されないのに、
ネットの発言は実名必須だとか、なんとも不思議な国もあったもんだ。
@EmbraceTheDarkness (12月16日 21:05)
党の皆さんは俺たちに、
街に出てデモをやってくれって言ってるんだよ。
ネットでガーガー喚くだけなのはやめようぜ、オイ。
――――――――――――――――――――――――――
ふむふむ。
やはり微博上においては不平不満を訴える声が非常に多く出ているのか。
……ところで話が変わって先日。
北京で別件の取材をしていて、
偶然に現在40歳の頭脳労働者(記者とかそこら辺の仕事のサラリーマンだと思われたし)と
一緒にごはんを食べる機会があった。
祖母が満洲族だったという彼は生粋の北京っ子であり、
北京の胡同の風情や、肉を食いまくる北方中国人の習慣の素晴らしさを力説していた。
正直、彼とは意気投合した。
ガツガツと飯を食ってビールとタバコをバカバカ開けながら
話をしているうちに、彼はこんなことを語りはじめた。
――――――――――――――――――
北:あのさ、1989年の六四天安門事件な。
俺は当時は18歳で大学に上がる前だったが、いやー、街に出てガンガンにデモをやったもんだ。
こうしないと中国は生まれ変わることができない、
そのためには俺たちが共産党を倒さなきゃ、ってね。
俺:あー、そういうご世代なんですね。なぜ当時はそう考えたんですか?
北:まさにそんな時代だったのさ。
文革が終わってまだ10年ちょっとくらいで、庶民の生活は貧しい。
だが、改革開放で官僚やら太子党やらだけが大金持ちになって贅沢をしている。
社会への不満は現在よりもずっと大きかった。俺たちは貧乏だったからね。
俺:なるほど。
北:あと、時代が時代だよね。当時のソ連や東欧に元気がないのは、俺たちにだってわかった。
やっぱり社会主義は間違いで、人間を貧乏にするだけなんだ。
逆にアメリカの価値観は何でも正しいはずなんだ。
民主主義になれば俺たちも豊かになれるんだぞ、と。
はは、単純でかわいいもんだろ? あの頃は若かったよなあ。
俺:当時の記録映像を見たことがありますが、やっぱりそんな印象でした。
北:ああ。それで人民解放軍の兵士に散々ぶん殴られてね。
6月4日の清場(=天安門事件)があった後には、俺も他の市民もみんな怒っていて、
大通りを走る解放軍の戦車に石をぶつけていた。
でも、あの時に石を投げていた連中、前の方にいたやつらは捕まってどこかに連れて行かれたな。
いまだにわからないんだけれど、あいつらどこに行ったんだろうなあ……。
俺:……。
北:もうね、共産党が憎くて仕方なかったよ。
庶民に不公平で貧乏な暮らしを強いてきて、それに文句を言ったら「戦車」だ。
なんて非道い連中なんだってね。
……でもな、最近はそうも言えなくなってきた。
俺:言論の引きしめですか?
北:違う、逆だよ。
中国に民主主義や言論の自由は相変わらずさっぱり無いのだけれど、
経済改革に成功したことで、俺たちは豊かになれてしまったんだ。
そりゃあ貧富の格差は非常に大きいし、社会問題は多いけれど、
天安門の時よりも社会が格段に良くなっていることも確かではある。
民主主義じゃないのに、俺たちは豊かになれてしまった。
俺:北京の街を見ていると説得力がありますね。10年前と比べるとすごい変化だ。
北:そうさ。民主主義体制の下で現在のような経済建設ができたか?
都市を発展させられたか? 14億人にとりあえずメシを食わせる政治を実現できたか?
それができた日本や台湾は幸せだよ。
でも中国大陸において、そんなことはやっぱり無理だったと思うんだ。
そして、中国共産党は経済発展を成し遂げて「功績を作ってしまった」。
その功績もまた決して小さくないんだよ。
俺:自分たちの生活を良くするために、民主主義は絶対の条件ではなかった。
北:……ああ。
自分の世代も、もちろん現在の中国の20代や10代も、
そんな中国を本気で変えたいとは思っていないはずさ。
いまの若者はネット上ではいろいろ言っているけれど、実際にデモはしない。
だって、そこまで追い詰められてはいないじゃないか。
天安門の頃は、もっと本気で社会がどうしようもなくて、貧しかったんだ。
俺:いま、再びああいう運動をやれるとしたら?
北:俺は勘弁だなあ。
現在の中国で『民主』や『リベラル』を気取っている著名人の多くは、
虚栄心やカネや世間体から、ポーズとしてやっていると感じるよ。
俺だって、そりゃあ昔は戦車に石を投げていた人間さ。
でもね、家のローンとか老後の蓄えとか子どもの教育とか現実的な問題を考えたら、
現在の体制の崩壊なんて本気で望めるわけがない。
俺:少なくとも、いまの中国はそういう「現実的な」問題を考えられるくらいには
都市市民が豊かになっていて、それなりの日常が存在する……。
北:ああ。それは若い連中だって同じだと思うなあ。
彼らは、今の中国で大学に入れて、ネットができる子たちなんだから。
それに、俺たちの時代と違って彼らは一人っ子だ。
俺たちは兄弟が誰か死んでも親を養えたけれど、一人っ子は簡単に死ねない。
われわれ中国人の孝道の問題からして、親に迷惑はかけられないだろう。
俺:説得力ありますね。
北:まあそういうもんなんだよ。もう一本、燕京ビールを注文したから付き合いたまえ。
――――――――――――――――――
北京の夜は氷点下だが、熱い話をしてくれた人であった。
……そこで元の話題に戻るのだが。
はてさて、新浪微博の実名化に怒りの声を上げるネットユーザーたちは、
何らかの行動を起こせるのだろうか。
せいぜい、北京市当局を萌えキャラにしたり、
どこかに「微博の墓」とかを作ってみんなで献花したりしながら、
諸外国からクレームが入るのを待つというあたりの、
良くも悪くもいつものパターンなヌルい抗議がなされて、
あとは何となく有耶無耶になっていくような気がしてならないのだがなあ……。
実名制。
前々から当局がやりたがっていたことではあるし、なかなかこの流れは覆らないような気もするのだ。
↑次の本出ました。
例によってサボっているからでもあるのだけれど、用事で3週間も中国へ行っていたからでもある。
雲南・広東(深セン)・マカオ・上海・北京と巡って、
「中国でかすぎありえねえワロタw」という取材になった。
ところで、今回の中国滞在でものすごく困ったのがネットだ。
どうやら今年の夏ごろまでよりも規制が更に厳しくなっているらしく、
Gmailの接続速度がえらい遅いし、Googleで検索自体がおこなえないこともしばしば。
(いっぽう、あまりの遅さにむかついて百度や優酷その他の中国サイトにつなぐと、
あまりにもあっさりと繋がって拍子抜けしたりするw)
……まあ、とはいえこれは当たり前っちゃあ当たり前のことなのだ。
日本ですらこれだけ「ネットは中国に自由と民主主義をもたらす!」とか
色々その手の言説が本屋にズラズラと並ぶ状況になってしまった現在、
中国共産党様がネットへの管理統制に本腰を入れるのは当然ではある。
もっとも一方で、実は中国の一般的なネットユーザーは、
ツイッターやフェイスブックはもちろん、意外とGmailやアマゾンなんかも使っておらず
かわりに中国国内のサービスを使っているため、
この規制にそれほど大きな不便を感じていない人もそれなりに多くいたりするのも事実だ。
ツイッター ⇒ 新浪微博、騰訊微博
フェイスブック ⇒ 人人網、QQ空間
ようつべ ⇒ 優酷、土豆ほか
Gmail ⇒ なんぼでもかわりのメールサービスがある
Google ⇒ 百度、捜狗
アマゾン ⇒ 当当網、タオバオ
中国のネット人口は5億人。
といっても、これは日本のネット人口「9900万人」と同じく、
グ●ーとかモ●ゲーの釣りゲームに10万円課金しちゃうアホな中学生とか、
携帯でワ●ワクメールしか使ってないヒャッハーなDQNとか、
孫に一週間に一回だけメールを打つのが楽しみのお婆ちゃんとか、
「店のHP作りました!」とマイドキュメントの場所名を壁に貼っちゃう食堂の店主とか、
そんな感じの(世間の圧倒的多数を占める)膨大なライトユーザーたちを包括した数字であって、
Googleやツイッターが使えなくて本気で困って悲しむような人たちは
ネット人口全体の(おそらく)2〜3割程度かそれ以下でしかない。
一昔前の日本で、少なからぬ人が
Gooとかニフティとかの検索やメールサービスを使っていて、
それはそれで不便を感じていなかったのを思い出してほしい。
現在の中国における「Googleが無い世界で不便を感じない人々」の存在というのも
それなりには想像できるのではあるまいか。
ライトユーザーというのは、
便利な国外サービスよりもわかりやすい国内サービスを使いがちであり、
国外のサービスが使えなくなっても意外と困らないものなのだ。
(余談だが、俺のオカンはいまだにGooで検索しているw)
……だが、だ。
どうやらGoogleやツイッターなどの国外サイトだけではなく、
ライトな人を引き寄せて現在はわが世の春を謳歌している中国国産ウェブサービスの世界にも、
当局の規制の波が押し寄せつつあるらしい。
それが「ミニブログ(微博)実名必須制」である。
中国・北京市、中国版ツイッター「微博」で実名登録を義務化(サーチナ)
中国・北京市政府は16日、“中国版ツイッター”と呼ばれる短文投稿サイト「微博」(ミニブログ)で実名登録を義務化
すると正式に発表した。即日施行され、ユーザーは3カ月以内に本当の個人情報で登録しなければ「つぶやく」ことができな
くなるという。中国各メディアが同日伝えた。
北京市政府は16日、「微博の発展管理規定」を公布、即日施行した。「規定」によると、個人もしくは団体ユーザーは住
民登録や法人登録といった本当の身分情報でなければ「微博」アカウント登録ができない。つまり北京市が管轄する新浪ネッ
トや捜狐ネットでは実名登録が必須になる。
「規定」によると、ユーザーは公布から3カ月以内に北京市インターネット情報内容主管部門に関連手続を申請しなけれ
ばならない。違反者は処罰されるとしている。報道によると、実名登録しなければ発言サービスが利用できなくなる。ただし
閲覧サービスのみ利用する場合は、現在のところ制限はないという。
中国インターネット情報センター(CNNIC)によると、中国のインターネットユーザーは6月末時点で4億8500万人、
「微博」ユーザーは約2億人。「微博」は急速に普及し、7月に起きた高速鉄道事故のように、ユーザーが事件事故の現場から
情報を発信するなどの“活躍”も多い。
北京市インターネット情報内容主管部門は、「微博の発展とともにデマや虚偽情報、ネットを利用した詐欺も現れ、公共
の利益を損なっている」とし、「規定」制定の理由を「インターネットの健全な発展を保障するため」だと説明している。
実名制導入について、中国ネット上ではさっそく物議をかもしている。「発言に責任を持つようになる」と評価する意見
もあるいっぽう、事実上当局による管理強化と受け止め、「ユーザーに孫悟空の緊箍(きんこ)をはめるようなもの」との批
判も出ている。
また、新浪など「微博」運営企業の業績に大きく影響し株価は下落すると見られている。(編集担当:阪本佳代)
こちらの問題について、
以下に「新浪微博」の利用者たちの反応を見てみることにしよう。
――――――――――――――――――――――――――
【微博の実名制、はじまる】12月16日 15:30
「南都週刊」公式アカウントのツイートへの反応より
http://www.weibo.com/1641532820/xChsdaXxL
@南都週刊
【北京市、微博実名制をはじめて推進】
北京市人民政府新聞弁公室・北京市公安局・北京市通信監理局・北京市互聯網信息弁公室は、
本日付で≪北京市微博発展管理若干規定≫を発表。
あらゆる組織と個人が微博のアカウントを作成する際には、
身元を証明しておこなわねばならず、
身元の証明ができない者は、閲覧のみが許可され発言は許されないこと、
各微博サイトは今後三カ月以内にユーザーに対する規定を完成させることを規定した。
http://t.cn/SciyVb
@安徽chaolei (12月16日 17:52)
これはまた、すさまじい影響が出そうだなあ……。
@譚昊TanHao (12月16日 19:02)
これまで、微博は自由な言論の場になれるんじゃないかって願っていた。
そして、微博は長らく圧迫に晒されすぎてきた
中国人の小さな息抜きの窓となっていた。
でも、もしもこの小さな窓ですらも閉じられてしまうとするならば……。
巨大な反発が、予想だにしないような勢いで噴き上がるかもしれない。
@myakb (12月16日 19:08)
(今回の指示を出した)後ろにいる人たちも実名制にしてくれ。
@莫邪xyj (12月16日 19:18)
予測はしていたことだが、ついに始まったな……。
@宦九歌兒 (12月16日 19:27)
やったぜ! これでもう遊ばなくなるよ!
※確かに、ソーシャルサービスが無くなった方が仕事の単純な効率は上がるよなw
@FHM占春苗 (12月16日 19:43)
ははは。政策というのは素早く決まるものだねえ。
@shu棠君 (12月16日 19:45)
言論の自由には、
もちろん匿名で言論を発表する自由だって含まれるはずだ。
※「実名アカウント以外はブロックします!」とか言ってる、
ちょっと気持ち悪いツイッターユーザーたちにぜひ聞かせたい言葉w
@無關註無粉絲無微博 (12月16日 19:52)
(偽アカウントを売る)ダフ屋がいい仕事になるだけじゃねえか。
(中国の体制は)まさにこのように各方面でダフ屋に福利厚生を施してあげる体制だよね。
※中国はデフォルト設定では行政その他のサービスがよろしくないが、
ワイロその他人脈背景によって、生活上の問題が日本以上に便利に解決されることもあるのが中国というもの。
ちなみに今回俺が中国でやった取材でも、「この地域では”殺し”以外は何をやってもフリー」という、
ものすごすぎる背景を持っている人に会っている。
@小浚子Fucky (12月16日 19:52)
この規定は北京市民に対してのものか、全国の人民に対してのものかどっちだ?
もしも全国の人民に対して課すものだったら、全人代(=中国の国会)はどこに行ったんだ?
全人代の常務委員会はどこへ?
こういうのって、ひとまずは名目上であっても全国組織で決定されるべきものでは?
※ここが今回、中国当局のズルいところかもしれない。
中国だってひとまずは法治国家を自称しているため、こういうことは本来、
やはり形式的とはいえ国会で法律として決まった上で全国に施行されるべき。
もしくは(これはすでに民主的なプロセスではないが)少なくとも国家機関が「通達」を送ることで
民間にそれを順守させるという手順を、最低限踏むべきではあった。
だが、言論弾圧法案なり通達なりを、国が責任を負う形で議論したり決めたりすると、
アメリカ様やEU様がお怒りになって面倒くさいし、声の大きいネット民も騒ぐしで面倒だ。
別にその気になれば中央から通達出したったっていいんだが、より面倒くさくない手法の方がいい。
そこで、新浪微博の本社が置かれている北京市で、「街の条例」として制定することにしたのだろう。
本社の運営規定として「実名必須」となれば、ネット実名制は事実上は実現できてしまうからだ。
ちなみに(意図的になされたものかは別として)似たような事例は日本にもないわけではない。
日本の出版社の9割が集中してコミケも開催される東京都で「ロリエロ漫画禁止条例」を制定すれば、
日本国内で流通する漫画の表現を事実上は大きく規制できてしまう……、という困った話は、
読者各位もどこかで聞いたことがあるのではないだろうか?
参考:「非実在青少年」(同人用語の基礎知識)http://www.paradisearmy.com/doujin/pasok_hizitsuzai.htm
@Joe胡振邦(12月16日 19:53)
>@軍械所樂隊 絶対に反対だ。非常に憤慨している。
>@劉立新-公民 言論の自由こそ栄誉、ネット実名制の強制は恥だ。
民主主義への距離がまた一歩遠のいたか……。
@小魚愛宸 (12月16日 20:18)
いつも弱者にばっかり刀を振るいやがって……。
@-笨peng蟹- (12月16日 20:33)
官僚の財産は一人として公開されないのに、
ネットの発言は実名必須だとか、なんとも不思議な国もあったもんだ。
@EmbraceTheDarkness (12月16日 21:05)
党の皆さんは俺たちに、
街に出てデモをやってくれって言ってるんだよ。
ネットでガーガー喚くだけなのはやめようぜ、オイ。
――――――――――――――――――――――――――
ふむふむ。
やはり微博上においては不平不満を訴える声が非常に多く出ているのか。
……ところで話が変わって先日。
北京で別件の取材をしていて、
偶然に現在40歳の頭脳労働者(記者とかそこら辺の仕事のサラリーマンだと思われたし)と
一緒にごはんを食べる機会があった。
祖母が満洲族だったという彼は生粋の北京っ子であり、
北京の胡同の風情や、肉を食いまくる北方中国人の習慣の素晴らしさを力説していた。
正直、彼とは意気投合した。
ガツガツと飯を食ってビールとタバコをバカバカ開けながら
話をしているうちに、彼はこんなことを語りはじめた。
――――――――――――――――――
北:あのさ、1989年の六四天安門事件な。
俺は当時は18歳で大学に上がる前だったが、いやー、街に出てガンガンにデモをやったもんだ。
こうしないと中国は生まれ変わることができない、
そのためには俺たちが共産党を倒さなきゃ、ってね。
俺:あー、そういうご世代なんですね。なぜ当時はそう考えたんですか?
北:まさにそんな時代だったのさ。
文革が終わってまだ10年ちょっとくらいで、庶民の生活は貧しい。
だが、改革開放で官僚やら太子党やらだけが大金持ちになって贅沢をしている。
社会への不満は現在よりもずっと大きかった。俺たちは貧乏だったからね。
俺:なるほど。
北:あと、時代が時代だよね。当時のソ連や東欧に元気がないのは、俺たちにだってわかった。
やっぱり社会主義は間違いで、人間を貧乏にするだけなんだ。
逆にアメリカの価値観は何でも正しいはずなんだ。
民主主義になれば俺たちも豊かになれるんだぞ、と。
はは、単純でかわいいもんだろ? あの頃は若かったよなあ。
俺:当時の記録映像を見たことがありますが、やっぱりそんな印象でした。
北:ああ。それで人民解放軍の兵士に散々ぶん殴られてね。
6月4日の清場(=天安門事件)があった後には、俺も他の市民もみんな怒っていて、
大通りを走る解放軍の戦車に石をぶつけていた。
でも、あの時に石を投げていた連中、前の方にいたやつらは捕まってどこかに連れて行かれたな。
いまだにわからないんだけれど、あいつらどこに行ったんだろうなあ……。
俺:……。
北:もうね、共産党が憎くて仕方なかったよ。
庶民に不公平で貧乏な暮らしを強いてきて、それに文句を言ったら「戦車」だ。
なんて非道い連中なんだってね。
……でもな、最近はそうも言えなくなってきた。
俺:言論の引きしめですか?
北:違う、逆だよ。
中国に民主主義や言論の自由は相変わらずさっぱり無いのだけれど、
経済改革に成功したことで、俺たちは豊かになれてしまったんだ。
そりゃあ貧富の格差は非常に大きいし、社会問題は多いけれど、
天安門の時よりも社会が格段に良くなっていることも確かではある。
民主主義じゃないのに、俺たちは豊かになれてしまった。
俺:北京の街を見ていると説得力がありますね。10年前と比べるとすごい変化だ。
北:そうさ。民主主義体制の下で現在のような経済建設ができたか?
都市を発展させられたか? 14億人にとりあえずメシを食わせる政治を実現できたか?
それができた日本や台湾は幸せだよ。
でも中国大陸において、そんなことはやっぱり無理だったと思うんだ。
そして、中国共産党は経済発展を成し遂げて「功績を作ってしまった」。
その功績もまた決して小さくないんだよ。
俺:自分たちの生活を良くするために、民主主義は絶対の条件ではなかった。
北:……ああ。
自分の世代も、もちろん現在の中国の20代や10代も、
そんな中国を本気で変えたいとは思っていないはずさ。
いまの若者はネット上ではいろいろ言っているけれど、実際にデモはしない。
だって、そこまで追い詰められてはいないじゃないか。
天安門の頃は、もっと本気で社会がどうしようもなくて、貧しかったんだ。
俺:いま、再びああいう運動をやれるとしたら?
北:俺は勘弁だなあ。
現在の中国で『民主』や『リベラル』を気取っている著名人の多くは、
虚栄心やカネや世間体から、ポーズとしてやっていると感じるよ。
俺だって、そりゃあ昔は戦車に石を投げていた人間さ。
でもね、家のローンとか老後の蓄えとか子どもの教育とか現実的な問題を考えたら、
現在の体制の崩壊なんて本気で望めるわけがない。
俺:少なくとも、いまの中国はそういう「現実的な」問題を考えられるくらいには
都市市民が豊かになっていて、それなりの日常が存在する……。
北:ああ。それは若い連中だって同じだと思うなあ。
彼らは、今の中国で大学に入れて、ネットができる子たちなんだから。
それに、俺たちの時代と違って彼らは一人っ子だ。
俺たちは兄弟が誰か死んでも親を養えたけれど、一人っ子は簡単に死ねない。
われわれ中国人の孝道の問題からして、親に迷惑はかけられないだろう。
俺:説得力ありますね。
北:まあそういうもんなんだよ。もう一本、燕京ビールを注文したから付き合いたまえ。
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北京の夜は氷点下だが、熱い話をしてくれた人であった。
……そこで元の話題に戻るのだが。
はてさて、新浪微博の実名化に怒りの声を上げるネットユーザーたちは、
何らかの行動を起こせるのだろうか。
せいぜい、北京市当局を萌えキャラにしたり、
どこかに「微博の墓」とかを作ってみんなで献花したりしながら、
諸外国からクレームが入るのを待つというあたりの、
良くも悪くもいつものパターンなヌルい抗議がなされて、
あとは何となく有耶無耶になっていくような気がしてならないのだがなあ……。
実名制。
前々から当局がやりたがっていたことではあるし、なかなかこの流れは覆らないような気もするのだ。
↑次の本出ました。